2006年10月27日 (金)

NO SIDE 第15話~ミウ3~

その彼が私がバイトしている
喫茶店に来たのは、
4月の終わり頃だった。
あの初対面以来、
彼の事は気にはなっていた。
同じ失敗を繰り返すのは
嫌だったので、
あの教室で講義のある時は、
早めに行くようにしていた。
その甲斐があって、
セナとの約束の席は、
ずっと確保できていた。
それと同時に、
彼がどの席に座ってるのかが
気になっていた。

その日私は、歌のレッスンが
長引いてしまい、
バイトの時間に遅れてしまった。
このくらいの時間帯は、
滅多にお客さんはいないので、
店への道を急ぎながらも
マスター一人でも
大丈夫だろうと考えていた。

「マスター、ごめんね!遅くなっちゃった」

お客はいないと思い込んでいた私は、
店に入るなりマスターに向かって
大声を出した。
マスターはあわてたように
口元に指をあて、
「ミウちゃん。お客さんがいるんだよ」
と私を嗜めた。
その時のお客が彼だったのだ。
そして私は、ようやく彼に
あの日のお礼を言う事ができた。
そして彼の名前が
「トキヤ」である事を知った。

それにしても、私は相変わらずだった。
私は男性とのコミュニケーションが、
どうも苦手なようだ。
意識しているわけではないのだが、
自分でも嫌になるくらい、
可愛くはなかった。
彼に私がどんな風に映ったか
気になっていた。
きっと私が自分で感じてるように、
気の強い、生意気な女性として
映っているに違いない。
そう思うと、なんか辛かった。

それにしても初対面から
こんなに気になる男性は
初めてだった。
ただその頃の私は、
その気持ちが「愛」に変わるなんて、
夢にも思っていなかった。
 

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2006年10月19日 (木)

NO SIDE 第14話~ミウ2~

私は講義中も後ろの彼の事が気になっていた。

(…やっぱり怒ってるかな?)

後ろからの視線が痛かった。
彼が怒るのは当然だ。
いきなり知らない女性から
席を譲れと言われ、
その理由が自分の名前が
書いてあるからというのでは、
到底納得のいく話ではない。
しかも、あんな言い方で…。

(…なんで私はあんな言い方しか
できないんだろう)

幼い頃から負けん気が強く、
男の子相手に喧嘩しても
負けた事がなかった。
中学の時に両親を失ってからは、
ますますその傾向が強くなり、
男子には煙たがられ、
女子の間ではなぜか人気があった。
ただ、その「強さ」は、
自分の寂しさや弱さを
他人には見られたくないという
気持ちの裏返しであるということを、
自分でよくわかっていた。

(講義が終わった後でにでも、
謝ったほうがいいかな?)

そんな気持ちもあったが、
謝る理由を説明しづらい。
そんなことを考えながら受けていた
講義が終わり、
まだその後の行動を悩んでいる
私を気にする事なく、
その彼は、さっさと教室を
出て行ってしまった。
次に会った時にでも
謝ろうと考えながら、
私は次の講義の教室に向かった。

その日の講義が全て終わると、
前から見つけていた喫茶店に
バイトの面接に向かった。
祖母に世話になっている私は、
高額な音楽大学の授業料を
少しでも負担する必要があった。
祖母にだけ迷惑はかけられないという
気持ちで一杯だった。
平日は授業があるので、
大学の近くでバイトしたいという
希望があった。
だから前もって大学の近くで、
バイトの募集をしているところを、
見つけておいたのだ。
さらに土日は、別のバイトをしようと
考えてもいた。
祖母は、そこまでしなくていいと
言ってくれているが、
そうでもしないと、
私を希望の大学に通わせるために、
無理をしている祖母に
申し訳なかった。

喫茶店のマスターは、
私の事情を理解してくれて、
「明日からおいで」と
言ってくれた。
学校が終わった後だけでなく、
講義の合間も働きたいという
私の想いを理解してくれた。
良いマスターに会えて、
嬉しかった。
こうして私の大学生活は、
始まった。

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2006年10月16日 (月)

NO SIDE 第13話~ミウ1~

1995年 4月

良い天気だった。
ちょっと蒸し暑さはあるけれど、
この季節の晴れの日は、本当に気持ちが良い。
予定より遅れ気味だったので、
私は少し急ぎながら、大学への道を歩く。

(後ろから5番目の窓際)

昨日セナから聞いた場所を思い出していた。

(まだ、誰も座ってなければ良いけど…)

それにしてもせっかく
一緒に同じ大学に通えると思ったのに、
しばらくは無理だと思うと残念だ。
セナはもともと呼吸器官が弱くて
高校の頃から学校を休みがちではあったが、
今回は受験の疲れも重なり、
ちょっと長い休みになるかもしれない。

「お願いがあるの」
「なに?」
「私夏の講習の時に、合格したら
ここに座るって席を決めてあるの」
「へえ…。そうなんだ」
「ミウ…、私の代わりにそこの席に座ってよ」
「私が…、セナの代わりに?」
「そう。私にとってあの席は
とても大切な席なの。だからお願い」
「だけどさ、どこの席かわかるかな?」
「大丈夫よ」
「なんでよ?」
「受験の時に、机にミウの名前書いたから」
「…」

早く元気になって、一緒に大学に行こうと約束して、
昨日はセナと別れた。
それにしても、机に落書きなんて、
セナも結構大胆だ。

(でもなんで私の名前なんだろう?)

時々セナはそうなのだ。
まるで先のことがわかるみたいに、
行動する事がある。
きっと私の名前にしたのも、
自分がスタートから行けなくなる事を
予測してのことだろう。
セナがくるまで、彼女の分も頑張ろうと思いながら、
私は大学の門をくぐった。
講義の教室に入ると、
私はすぐに窓際の後ろから5番目の席をさがした。

(げっ!)

すでにその席は座られていた。
しかもこの大学では、数少ない男にだ。
何となく見たことのある顔だった。

(受験の時に見たのかな?)

私は一度後ろの席に座り、
彼に気づかれないように、
セナの書いた落書きをさがす。

(あった!)

たしかにその席には、私の名前が書いてある。

(どうしよう…、セナとの約束だし…。
でも男かぁ…。めんどくさいなぁ)

どうせセナな見てないし、
「座ったよ」って一言ウソをつけばすむことだけど…、
病室のセナの顔を思い出すと、
そんな裏切りは出来ないと思った。

(よし!)

私は思い切って立ち上がり、
その彼の前に立った。

「ねぇ」

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2006年10月11日 (水)

NO SIDE 第12話~真実1~

私は彼がトイレに行っている隙に
録音用のテープを交換した。
それにしても彼の思い出の話は
ストーリーとしては完璧だった。
ミウとの出会いから、彼女に恋をするまで、
細かい彼女とのやりとりなど、
しっかりと覚えていた。

(…なのになぜ?)

私はすっかりと冷めた残りのコーヒーに
口をつけた。
「やあ、セナさん」
突然自分にかけられた声に驚いて振り向くと、
そこには小野田先生が立っていた。

「先生…。ここにいたのですか?」
「うむ。君の事が心配でね。
君の事だから、きっとここに来ると思って、
先回りしていたんだ」
「そうですか」
「どうだね、トキヤくんは?」
「本題に入るのはこれからですけど、
チャペルに行くのは、
少し早すぎたかもしれませんね」
「仕方ないよ。彼はまだ事実を
知らないのだからね」
「そうですね…。
先生、彼はあの事実を
受け止められるでしょうか?」
「そうだな…。君次第じゃないかな」
「わたし次第…ですか?」
「うむ。
ただ彼が事実を知ったところで、
君がつらくなるのではないかと
心配だよ」
「先生、ありがとうございます。
でも私のことはいいです。
彼が事実を受け止めて、
そして…」

(そう…。それが私の役目だ)

「そうか…。彼の事は頼んだよ。
あまりあせらないで、
ゆっくりと彼とつきあってあげなさい」
「…はい」

先生の言うとおりだと思った。
彼が事実を知れば、
彼は本当に苦しむだろう。
そして私の気持ちは、
きっと永遠に報われない。
それはよくわかっている。
でも…。

(これでいいんだよね、ミウ?)
(彼が事実を受け止めて先に進む事が、
あなたの望みよね?)

今となっては、ミウの気持ちを
確認する事はできない。
でもきっと彼女なら、
私と同じ選択をしただろう。

「おまたせしました」
彼がトイレから戻ってきた。
そして私は再び、
彼と未来へ歩きはじめた。

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2006年10月 6日 (金)

NO SIDE 第11話~突然のデート3~

ミウのおばさんは、黙って僕たちの会話を
聞いていたが、飲み物がなくなったのを見ると、
新しい飲み物を持ってきた。

「ありがとう、おばさん」
「ミウちゃんさ…、これからどうするの?」
「そうだね…。とりあえずここには住めそうだから、
もっとバイトを増やして…、何とか大学は続けるわ」

僕はずっと気になっていたことを
ミウに聞いてみた。
「あのさ…。ミウのご両親は?」
その質問には、ミウではなく、
おばさんが答えた。
「ミウちゃんの両親は、ミウちゃんが中学の時に
亡くなっているの」
「えっ!…両親ともですか?」
「そう。不幸な事故でね。
それからミウちゃんは、おばあちゃんと
ずっと二人で暮らしてきたのよ。
こう見えてこの子、苦労してんのよ」
「それじゃ、おばあちゃんが亡くなってしまったら…」
「そう…。一人になっちゃたね。ミウちゃん」
そんなおばさんの言葉にミウは、
「私は大丈夫よ。
おばさんが近くにいてくれるし、
おばあちゃんがいなくなって寂しくないって言えば
ウソになるけど…、私は大丈夫」
と自分に言い聞かせるように言った。
そしてまた一言「大丈夫」と繰り返した。

(…バイトしていたのは、学費のためだったのか)

僕はなぜミウが外で強がっているのか
わかったような気がした。
彼女はきっと甘える事が出来ないのだ。
自分が生きていくことに必死なのだ。
だから、強がることで心のバランスを
保っているのだと思った。
きっと自分のエリアの中に誰かが入ってきたら、
というより、誰かをそこに入れてしまったら、
自分が壊れてしまうという思いで、
あんなに強がっていたのではないかと。

僕はミウの家からの帰り道、
ずっとそんな事を考えていた。
そんなミウの心を知ってしまったあの時に、
きっと僕はミウに恋をしたのだと思う。

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