NO SIDE 第8話~6月~
6月になった。
今年はいつもより早く梅雨がやってきた。
そして雨の日の多い6月だった。
この頃になると僕もすっかり
大学生活に慣れていた。
ピアノ専攻以外の科の知り合いも増えた。
大学にはピアノやバイオリンなどの楽器専攻以外に、
声楽、作曲、指揮、教育など多くの科がある。
中でも声楽や教育の連中は同じ講義を受ける事が多く、
男女問わず仲良く接する機会が増えた。
そんなわけで入学前にイメージしていた
大学生活に近づいた毎日を僕は過ごしていた。
ただそんな僕には、6月に入り気になる事があった。
ミウの姿を見かけなくなったのだ。
もっとも僕とミウは全て同じ講義を
選択していたわけではない。
ミウの姿を見かけないことは今までもあった。
ただ、あの「ミウの席」のある教室では
いつも同じ講義を受けていて、
必ずミウの事を目にしていたのだが、
最近は、その教室でもミウの姿を
見かけない日が多くなった。
ある日講義が始まっても
ミウがあらわれない事を確認して、
僕は「ミウの席」に座ってみた。
…あの日以来だった。
例のミウと書かれた落書きは残っていた。
なぜ彼女はこの席にこだわるのかを考えていた。
(夏の講習から決めていた)と言っていた
ミウの言葉を思い出した。
あの時に何があったのだろうか?
この席に彼女を繋ぎ止めるほどの
大きな出来事があったのだろうか?
僕も夏の講習には参加していたが、
その時にはミウの事など知らなかったので
彼女に何があったとしても知る術はない。
その日ピアノのレッスンが終わり、
僕はあの喫茶店に向かった。
猪俣と一緒に行ったあの日以来、
3日に一度は通うようになっていた。
それは純粋にコーヒーの味が気に入ったわけで、
ミウに会うために通っていたわけではない。
店に着いて驚いた事にミウはバイトをしていた。
「学校休んでもバイトはしてるんだ?」
注文を聞きにきたミウに尋ねる。
「まあね…。私のことチェックしてるわけ?」
「今日は音楽社会学があったろう。
そりゃ、あの席は気になるからさ…」
「ちょっとね、色々とあって」
「一年のうちに単位落とすと後がきつくなるぞ」
「そんなことはわかってるよ。事情があるの」
「バイトはしてるじゃないか」
「それも事情があるの…。いつものコーヒーでいいの?」
「あのさ…、もう少し楽になったら?
そうやって突っ張っていると疲れないか?」
僕の言葉には答えずにミウはカウンターに戻っていった。
僕はそれ以上の詮索をやめた。
数日がたった。
その日も朝から雨が降り続いていた。
その日の講義が終わると、
明日の講義の確認をするために
入口近くにある掲示板に向かった。
大学にはその辺りに大きな傘置き場が設置されている。
ほとんどの講義がその校舎で行われるため、
学生のためにそんなバカでかい傘置き場を
設置したと思うが、
ほとんどの学生が教室まで傘を持ち込むため
意味のないものだった。
むしろベンチ代わりにその傘たてに腰を下ろし、
話し込む学生の姿が多く見られた。
掲示板を確認していると、
その傘たてにミウの姿を見つけた。
いつもならバイトをしている時間だと思うが、
傘たてに腰掛けてぼんやりしていた。
何となく元気がないように見える。
そんなミウの姿を見るのは初めてなので、
思わず僕はミウに話しかけていた。
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