NO SIDE 第9話~突然のデート~
「こんなところで何してるんだ?」
「…あっ」
「バイトは?」
「今日は休んだ」
「何で?」
「別に…」
「なんだよ、また秘密か…。別にいいけどさ」
僕はミウと並んで傘たてに座ってみる。
「へぇ…、初めて座ってみたけど、
ここに座っている奴らの気持ちが何となくわかるな」
ミウはとなりに座った僕を見て
嫌がっている感じではなかった。
とは言っても歓迎している感じもない。
「三杉くん…。今日これから時間ある?」
「今日?後は帰るだけだから時間はあるけど」
「じゃあ、ちょっとつきあってくれる?」
ミウとつきあうようになって
なぜあの時ミウがあの場所にいたのか聞いた事がある。
「あなたを待っていたのよ」
偶然ではないとミウは言っていた。
それが本当かどうかは今でもわからない。
ただあの日、あの場所でミウと会ったことが、
それからの僕の人生を大きく変えた事は
間違いない。
「ついてきて」
とミウが先を歩き出す。
傘にあたる雨音を妙に大きく感じながら
ただ黙って僕たちは歩いた。
池袋の駅に着くと、ミウは僕の分の切符を買い
僕に渡した。
「どこに行くんだ?」
大学を出て初めて僕がしゃべった言葉だった。
「西武線に乗っていくわ。とにかくついてきて」
ミウはそれ以上何も言わなかった。
初めて乗った西武線だったが、
行き先のわからない僕は
落ち着いてその事を楽しむ気分ではなかった。
電車の中でもミウと僕は何も話さなかった。
ミウはただ流れる景色を見て、
僕は電車内の広告に目を移していた。
20分くらい乗っただろうか、
ある駅に到着した。
「ここで降りるよ」
というミウの声に促され、僕たちは電車を降りる。
もちろん知らない駅だった。
「…どこここ?まだ東京?」
「東京だよ。ここからあとちょっと歩くよ」
「…」
駅を出て初めて通る商店街をぬけていく。
ミウは急いでいるのか、早足で歩いていくので
彼女の後をつけるのが精一杯で
ゆっくりと町並みを楽しむ事はできなかった。
10分くらい歩いたろうか、やがて一軒の家の前に着く。
「着いたよ」というミウの声。
「…えっ?どこなのここは?」
「わたしの家よ。入って」
「えっ、家?なに、どうゆうこと?」
僕はあらためて目の前の家を見る。
見慣れないちょうちんが軒先に下がっている。
よく見ると花も飾ってある。
(…葬式?)
ミウに何か尋ねようとしたが、
僕に構わず家の中に入っていく彼女を見て
あわてて僕も家の中に入った。
「ミウちゃん遅いよ!もう始まるよ」
中年の女性が少し怒った顔で僕たちを迎えた。
「ごめんね、おばさん。ちょっと学校で遅くなっちゃた」
「あなたがいないと、おばあちゃん寂しがるでしょ」
「そうだね。ごめん」
「あら…、そちらの人は?」
ようやくその女性は僕の存在に気づいた。
「大学の友だち。今日ピアノ弾いてもらうから」
(えっ!ピアノ?…なに?)
「あら、それはすみませんね。
ミウちゃんの歌に見送られるのが
夢でしたから、おばあちゃんきっと喜ぶわ。
どうぞあがってください」
僕はひどく混乱していた。
ここはミウの家で、おばあちゃんの葬式らしく、
そして僕がピアノを弾く…?
わけがわからないまま、
僕は家の中に入っていった。
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