NO SIDE 第6話~なぜ?~
「お待たせしました」
コーヒーを運んできたのはミウだった。
「こんにちは。たしか同じ大学だよね?」
猪俣がミウに話かけた。
「そう…?同じ大学なの?」
(…すぐに気づけよ)と思いながら
僕はミウにたずねた。
「…僕にさ、見覚えない?」
「…あっ!」
「思い出してくれたか…。
初対面でいきなり席を奪われた男のこと」
「そうだったわね。あの時はありがとうね」
何故かミウは(ごめんなさい)ではなく、
(ありがとう)という言葉を使った。
僕は少し意外な感じがした。
「ここでバイトしてるんだ?」
「そうよ。7時くらいまでね」
「音大のお嬢様でもバイトするんだ。
…何?社会勉強?」
僕は自分でも考えられないほど、
ミウに対してきつい言葉を投げた。
「なによ…。まだあのこと根に持ってるの?
悪いけど私、お嬢様じゃないわよ」
猪俣は驚いた表情で僕たちのやりとりを見ながら、
「なにお前ら…知り合いだったの?」と言った。
「記念すべき最初の講義で、いきなりガンをつけられたんだよ」
「品のない言い方ね。
あなたが勝手に私の席に座ったからでしょ」
「…だから、なんであの席が君の席なんだ?」
「いいじゃない別に理由なんて。
たまたまあなただったけど、誰が座ってても
私は同じことをしたわよ」
「どいてもらうのでもさ、言い方があるじゃないか。
あれじゃまるで喧嘩売ってるみたいだ」
「もう!しつこいな。
さっき(ありがとう)ってお礼言ったし、もういいでしょ」
ミウと僕のやりとりを黙って聞いていた猪俣が
「あのさ…。せっかくこうして会ったんだし、
楽しくやらないか?」とあきれたように言った。
考えてみれば猪俣の言うとおりだった。
この一ヶ月、あの席に座れないことなど
たいして気にもしてなかったはずだ。
ただ、こうしてミウに会って話をしてみると、
なぜか自分の中で思ってもいない言葉が溢れてきてしまった。
「…そうね、同じ大学同士だもんね。
…わたしミウよ。梶本ミウ」
「俺、猪俣 大」
「…三杉トキヤ」
そんな自己紹介が終わった時、
新しい客が店内に入ってきた。
(いらしゃいませ)と言いながら
ミウはカウンターに戻っていった。
僕はそんな彼女を目で追いながら、
彼女が運んできたコーヒーに口をつけた。
「どうよ?」
「…なんだろうな…。初対面があまりに悪かったからな。
…でもバイトしてるのは意外だった。
どうせそんな必要もないお嬢様だと思ってたからさ。
入学してまだ一ヶ月だろう…
もうバイトしてるって、なんか理由があるのかな?
それにしてもさ、本当に気の強い女だよな。
顔にも出てるっていうか…。
最初の時も思ったけど、あんな女初めてだよ。
ここのマスターも大変だよな。
あんなの雇っちゃってさ」
一方的に捲くし立てる僕を見ながら、
猪俣はあきれた顔で言った。
「…俺が聞いてるのは、コーヒーの味なんだけど」
苦笑している猪俣の顔を
まともに見れない僕がいた。
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